EPA受入れ事例紹介

2018年3月30日 NEW

外国人人材の受け入れの成否は、尊敬の念を持って迎えようとする施設側の姿勢が要

EPA受入れ事例紹介

 みやま市の特別養護老人ホーム常照苑は、平成27年にインドネシア、ベトナムから経済連携協定(EPA)による介護福祉士候補者の受け入れを開始。現在、ベトナム出身2名、インドネシア出身5名を受け入れています。施設側の受け入れ体制等について、横倉義英施設長、先輩日本人介護スタッフの田中絵理加さん(介護福祉士)にお聞きしました。(以下、文中敬称略)

事前に生活習慣の違いを学び、敬意を払う気持ちを大切にする


横倉義英施設長

――EPA介護福祉士の候補者受け入れを決めた経緯をお聞かせください。
横倉
 EPAによる外国人介護人材の受け入れの目的は、介護技能の習得や人材交流による国際貢献です。インドネシア、ベトナムをはじめとするアジア諸国ではこの10年先、20年先に日本と同様に高齢化が進み、介護の課題が表面化すると言われています。外国人人材を受け入れることで、昭和59年の法人設立当初から培った高齢者の介護に関するノウハウを少しでもお伝えできればと考え、外国人介護人材の受け入れを決めました。

――外国人人材の受け入れに関して、事前準備ではどのようなことをされましたか?

横倉
 日本人スタッフへの教育として研修会を実施しました。具体的には、宗教に根ざした生活習慣の違いなどです。特にイスラム教徒の場合は、女性が身に付けるヒジャブなど日本に馴染みのない習慣については、事前レクチャーを行いました。また、「もし、あなたなら言葉も充分ではない海外で働けますか?」と問いかけ、「外国人スタッフは相当の覚悟を持って日本に来ており、その覚悟に対して、私たちは敬意を払うべきではないか」と伝えました。外国人スタッフは私たちを通じて日本を知ることになります。私たち受け入れ側は、日本の文化や日本の介護を正しく伝える責任があることを忘れてはいけないと強調しました。

田中
 外国人スタッフ受け入れの事前準備では、施設長や課長を含め多くの職員で協議を重ね、技術の伝達や職能評価の仕組みを作りました。端的で分かりやすい評価表を作成できましたので、新人スタッフの育成にも活用し、今では当法人のスタンダードになっています。

外国人介護人材の真摯な姿勢は、日本人スタッフにとっても良い刺激になります

――外国人スタッフを受け入れたことで、職場の雰囲気は変わりましたか?
横倉
 EPAによる制度では、母国で看護を学んだ方が来日しています。看護の知識が基礎にあるので、日本人スタッフも良い刺激を得ているようです。
 
田中
 真面目で真摯な姿勢は、私たち日本人スタッフの良いお手本になります。当法人では、外国人スタッフが来日すると、手づくりの家庭料理を持ち寄って「ウェルカム・ランチ」を開き、親交を深めています。言葉や生活習慣の違いはありますが、目の前の高齢者が幸せに暮らせるように支援する、同じ志を持つ仲間として受け入れています。


田中絵理加さん

――これから外国人の介護人材が活躍する場が広がってくると思います。受け入れ側としての心構えなどがあれば教えてください。
 
横倉
 外国人の受け入れに関しては、日本人スタッフと同一労働同一賃金としています。介護人材の不足を補うため、また低賃金での雇用が可能などといった安易な受け入れではうまくいきません。私たちの法人では、マッチングで現地を訪れる際、経営者層だけではなく、なるべく現場のスタッフを連れて行くようにしています。その国の風土を肌で感じてもらうことが狙いです。受け入れの成否は、私たち施設側が尊敬の念を持って迎えられるかどうかにあると感じています。

介護福祉士に合格し、日本で介護の仕事を続けたいです


「最初に覚えたのは『認』という漢字。名前と同じ『ニン』という読みが気に入っています。」

EPA介護福祉士候補者
グエン・ティ・ニンさん
ベトナム出身
平成27年8月から同施設に勤務

 ベトナムの看護大学を卒業する時、日本のEPAプログラムがあると知り、関心を持ちました。幼い頃から日本のアニメを見ていましたし、桜や富士山にあこがれがあったので、いつか訪れたいと思っていました。
 
 来日当初、方言が分からなくて戸惑いました。例えば、「よか、よか」は「良い」という意味で覚えていたのですが、場合によっては「しなくてもいいよ」という否定で使われることもあります。今は、周囲の様子や利用者様の状況を見て、少し分かるようになりましたが、日本語は、特に方言は日々、勉強です。

 常照苑では、ユニットケアを導入しており、担当ユニットのご利用者様のケアをさせてもらっています。日本人スタッフ同様、夜勤もしていて、ご利用者様と夕べ何をしたか、どんなテレビを見たかなど、いろいろな話をしてコミュニケーションを深めています。私は今、日本語能力試験「N1」合格に向けて勉強をしているので、たまにご利用者様に漢字を教えていただいたりもします。ご利用者様が笑顔を向けてくれることが、私の喜びです。

  来日して4年目を迎え、平成31年1月に介護福祉士の国家試験に挑戦します。合格すれば、このまま日本で介護の仕事を続けたいと考えていますが、将来的にはベトナムで、日本で学んだ介護の知識や技術を役立てることができたら嬉しいです。

日本での経験をいつかインドネシアのために役立てたいです


「誕生会などで歌ったり、皆でおやつ作りをするレクリエーションの時間がとても好きです。お年寄りから日本の文化もたくさん教えてもらっています。」

EPA介護福祉士候補者
ヒダヤ・サビルさん
インドネシア出身
平成28年12月から同施設に勤務

 インドネシアで看護師の仕事をしていましたが、EPA介護福祉士として東京で働いていた友人から日本での話を聞き、私も来日を決めました。実は、姉もEPA介護福祉士候補者として神戸の介護施設で働いています。インドネシアの多くの仲間が日本で働いているので心強いです。

 受け入れ施設の中から常照苑を選んだのは、十分な教育体制が整っているからです。日本で働いている間、私たちは日本語能力検定の試験や介護福祉士国家試験を受けます。仕事をしながら日本語や介護の専門知識を学ぶことができるので、施設の方たちには感謝しています。
 
 インドネシアには、まだ介護施設はありません。朝から夜まで24時間、お年寄りの暮らしを支える日本の介護は大変だと思うこともありますが、インドネシアもこの先、日本と同じように介護が必要な時代がくると思います。その時に日本での経験を生かしたいと考えています。

施設概要

社会福祉法人光輪会 特別養護老人ホーム常照苑
〒839-0225
みやま市高田町上楠田1237
TEL:0944-22-2350

経済連携協定(EPA)に基づく介護福祉士候補者の受け入れについて

日本と相手国の経済上の連携を強化する観点から公的な枠組みで特例的に行うもので、インドネシア、フィリピン、ベトナムからの外国人介護福祉士候補者が日本の介護施設で就労・研修をしながら日本の介護福祉士資格の取得を目指すものです。介護福祉士候補者の受け入れは、国内で唯一の受け入れ調整機関である公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)を通じて行います。